分析委員会だより

「分析が有用な中毒起因物質の実用的分析法」について

はじめに

 和歌山の毒入りカレー事件やその後に頻発した毒物混入事件を契機に,旧厚生省では全国73カ所の救命救急センター,高度救命救急センターに化学物質分析機器を1998年度に配布した.救命救急センターに分析機器が配布されれば,患者が搬入された中毒治療の最前線の医療施設で分析が行われ,治療に反映できるとの見通しによるものと思われる.しかしながら,多くの救命救急センターでは,自らの手で中毒起因物質の分析を行った経験がきわめて少なかった.また,分析機器を有していた救命救急センターでも,治療の片手間に,あるいは専任の技師を配置できた一部の救命救急センターで限られた物質に対する分析が行われていたにすぎないというのが実状であった.  日本中毒学会では,当時の「分析のあり方検討委員会」が,配備された機器を中毒医療に最大限に機能させることを目的として分析技術の普及について検討した.その結果,「分析が有用な中毒起因物質を限定して指定し,これらについての分析方法を,機器が配備された救命救急センターなどに普及させるのが効果的である」と結論した.そして,分析が有用な中毒起因物質として,①死亡例が多い中毒,②分析が治療に直結する中毒,③臨床医からの分析依頼が多い中毒,として表のごとき15品目を指定した.  今回,その委員会を引き継いだ日本中毒学会「分析委員会」では,これらの中毒起因物質について,分析委員会として推奨する実用的分析方法を具体的に呈示してゆくこととなった.日本中毒学会の準機関誌である本誌を利用させていただき,これら15品目を中心として,その基本的な分析方法を毎号に紹介し,連載してゆく予定である.基本的な執筆方針としては,患者の診療にあたる病院の分析担当者に対して,本委員会として推奨する分析方法を呈示し,分析の普及を図るとともに,患者の治療に資することによって,分析担当者のモティベーションを高めることにある.具体的には,可能な限り,まずは起因物質が何であるかを判定する定性または半定量分析方法を提示し,臨床医が初療室にて,あるいは集中治療室にて当面行うべき治療方針決定の指針としたい.次いで,本委員会として推奨する実用的定量分析方法を呈示し,その後の治療に反映させられることをねらいとする.本稿で提示する分析方法は,絶対的な正確性を追求するものではなく,臨床中毒において治療に貢献できる分析法として,迅速,簡便,普遍性を重視した実用的分析法として推奨するものである.  本委員会には5名の分析担当者,3名の臨床医,1名の情報担当者がおり,それぞれの立場を生かして協力し,第2報以後は分担して連載してゆく予定である.これまで中毒治療における分析が十分にはなされていなかった施設における分析および病態評価のアクティビティを上げることに寄与できれば幸いである.

 

日本中毒学会分析委員会委員(2001年7月~2004年7月、50音順)

岩崎 泰昌 広島大学医学部 救急部・集中治療部
工藤 恵子 九州大学大学院医学研究院 法医学
黒木由美子 日本中毒情報センター つくば中毒110番
小宮山 豊 関西医科大学 臨床検査医学
中谷 壽男 関西医科大学 救急医学科
奈女良 昭 広島大学医学部 法医学
堀   寧 新潟市民病院 薬剤部
屋敷 幹雄 広島大学医学部 法医学
山口 芳裕 杏林大学医学部 救急医学